チーズ揚げ餃子

 

一人暮らしを始めてから、宅配を頼むことが増えた。宅配といっても出前のようなものではなく、UberEatsという珍妙なサービスだ。マクドナルドや吉野家など、大手チェーン店の商品をバイトの人がチャリンコかっ飛ばして届けてくれる。一時期職場でも大流行りして、各々が別の商品を注文し、一日の同じ時間に3人ほど知らない兄ちゃんが訪ねて来たこともある。まとめて頼め。

バーチャルYouTuber業界の人間として言うのもおかしな話だが、元々流行り物をあまり好まない性分なので、その頃は「UberEatsを利用する人間は軟弱者」と言い張って譲らなかった。そもそもクソ狭いオフィスにマクドナルドのジャンキーな香りを充満させるんじゃない。腹減るだろが。

 

とはいえ、コンビニ飯にも飽き飽きしていた。かといって自炊ができる訳でもないし、わざわざ店へ出向くと大きく時間を削られてしまう。別に一人暮らしで利用する分には合理的だろうと思い、UberEatsのサイトを開いた。住所とクレジットカードを登録し、商品を選ぶ。

 

20分後にはすた丼のガーリックバター牛丼が自宅の机に鎮座していた。魔法だ。

 

割高であることを除けば、なるほど確かにこれは便利であると言わざるを得ない。何より、注文できる商品、加盟している店舗が想像より多かった(都内なればこそだろうが)。店舗一覧を眺めている時間は、コンビニの棚を眺めるよりよっぽど楽しい。あの絶妙に打率の悪いコンビニ飯を吟味するのはもうこりごりだ。結局売れ残ったハッシュポテトを野菜ジュースで流し込むのが常だった。ちなみにコンビニのハッシュポテトはあっためずに常温で食った方がサクサクして美味い。

 

というわけで、今日もUberEatsを利用した。餃子の王将の商品を眺めていると、「揚げ餃子」の文字が視界に入った。揚げ餃子といえば、子供の頃からの大好物である。母の作る餃子は異常なほど美味かったが、それがカリカリに揚がって食卓に並ぶのはドラッグ・パーティに近い幸福度があった。無論ドラッグをやったことは無い。

 

餃子は別にいつでもどこでも食える定番メニューだが、揚げ餃子となれば話は別だ。今日は揚げ餃子と、白米。これで決まり。必勝。最強。

 

商品をカートに入れ、注文ボタンを押そうとしたところで「チーズ揚げ餃子」というものがあることに気づいた。特に迷うことはない、チーズ揚げ餃子にチェンジだ。何故なら俺たちはチーズが大好きだから。

 

20分ほどでこれまた知らない兄ちゃんが飯を届けてくれた。最近街でよく見かける、黒くて四角いバッグを背負っていた。彼はきっと現代のサンタさんに違いない。ヒゲ生えてたし。玄関口で商品を受け取り、ドアを閉める。たった数秒のふれあい。一期一会。

 

プラスチックの容器を開けると、そこには小ぶりなチーズ揚げ餃子が10個ほど並んでいた。宅配という過程を経ている為にあまり行儀の良い並び方はしていないが、揚げ餃子の姿を見ること自体数年ぶりだ。自然と気分が高揚した。

 

早速一つ口に入れる。カリカリの皮が軽快な音を鳴らし、熱々のチーズが舌に流れ込んでくる。

 

肉入ってねえ。

 

これチーズ揚げ餃子じゃなくてただのチーズを餃子の皮で包んで揚げたものじゃねぇか。端折って言えばチーズ揚げでしかないだろ。おかずじゃなくて完全につまみだよこれは。

 

ふざけやがって。お前。チーズ揚げ餃子は「チーズの入った餃子を揚げたもの」であるべきじゃないのか。お前のような奴が餃子を名乗るな。ドサンピンが。バカ。

 

白米を口に放り込む。合わない。泣きたくなる。チーズ揚げをかじる。熱い。泣きたくなる。

 

女の作った味噌汁が飲みたい。